Creation Stories クリエイション・ストーリーズ (DVD)

※ネタバレ大いにあります

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なぜこの時期に作られたのかよくわからない、CREATIONレーベルの主宰者Alan McGee伝記映画。今時DVDを買うというのもアレですが、配信で見るのもさらにアレかと思い購入。昨今音楽レーベルの主宰者なんて話題にもならないような要素になっていますが、この時分はどこどこの誰々のレーベルということで、お目当ての音楽探しの際の参考にしたものです。

内容については別にどうということもないし、それは何度見ても同じで、おおよそ知っていたことをなぞっていて、Alanのプライベートがそこに加わるというだけ。この映画を見ようというような人はほとんど最初から内容が分かっているでしょう。筆者はCREATIONについてメジャーディストリビューション後からしか接していないので、それ以前の経緯はあまり知らず、その点では発見もあったとは言えます。むしろ公式サイトの過剰な売り文句や宣伝キャッチがやたらと気に触る感じがします。それも含めて雑感を。

物語は現在(あのCREATIONのAlanさんを若手インタビュアーが取材、という設定)と過去(グラスゴーでの生活)を行ったり来たりしつつの展開。Alanの青年時代から始まり、Bobby GillespieやAndrew Innesとの出会いと、家族間のいざこざのお話から。まあこれはどこにでもある話であって、別に何がどうということはありません。どうしても街に出ないと、というほどのものはなく、ちょっと何かやってやろうくらいの感覚。1970年代中盤のスコットランドなので、いろいろにっちもさっちもいかない社会状況があったと思われるものの、そのあたりはさほど触れられず、もっぱら家族関係と友人関係のみ。ボビーの父親が出てきて、労働党員である描写はあり、これは有名な話です。

Bobbyを置いてAndrewとロンドンにやって来て、BRに勤めながらバンドでギグをこなし、というのも普通です。ここで、Andrewが業界に染まりすぎて薬物過剰摂取となり、腎臓を1つ摘出したという描写がありますが、Paolo Hewitt「クリエイション・レコーズ物語」の邦訳では、「肝臓を1つ取った」となっています。肝臓の一部を、ということなのかもしれませんが、これは原著か翻訳がおかしく、「片方なくなった」のなら本作の描写の方が正しいはず。まあ過剰摂取では肝臓か腎臓どちらかがやられるとは思いますが。

そのうちにバンドマネジメントやライブハウス運営に乗り出し、ギグにTelevision Personalitiesを呼んで混乱、しかし意気投合してCREATIONの運営がスタート、というあたりはへええ、という感じ。このあたり、人物動向が混乱しますが、本作と「クリエイション・レコーズ物語」とを読み合わせるとよくわかります。ただし、のちにHEAVENLYレーベルをたちあげるJeff Barrettは本作にほぼ登場しません。やや伏線と読めないこともない。

当然Jesus & Mary Chainの話が来て、しばらくおおわらわとなりつつ経営は無軌道で破産の危機。やむなくメジャーレーベルと提携交渉するも、相手先のあまりのクズ野郎ぶりにそれを蹴って綱渡り経営を続けるという流れ。本作でクズ扱いされているのはその頃成立したBMGのことなのかわかりませんが(その後実際にBMGの名前が出てきます)、日本でもMBVのIsn't Anythingは最初ビクターから出ていたような記憶が。その後日本コロムビアに変わり、当時はCREATIONも4ADも日本コロムビアから出るという、担当者はウハウハだっただろうなというディストロでした(バンドによって日本盤はSireやGeffen経由でWarnerなどの線もありましたが)。

となるとキャッキャする人も現れ、CREATIONオフィスに日本人の若手女性ファン達が訪ねて来て、Alanをスター扱いし、ほとほと困り切るという描写。まあ、実話なんでしょう。そこで母の死が重なり、グラスゴーに飛んで帰ろうとするも電車に乗り遅れ、葬儀後ボロボロでオフィスに戻ってきたら日本人ファンが疲れて寝ているという。ほんとかねというところですが、そんなローラーコースターネタに本邦ファンが使われるという流れになっております。扱いとしてはよくないわな。

そしてMy Bloody Valentine。出だしがホラー風なのは笑う(この名前を嫌う現メンバーへの当てつけか)。Lovelessのレコーディングで大金を使われレーベル運営の危機になった話は以前から伝わります。しっかりと時間をとってこの関係を描いているのは面白いのですが、他のバンドの名前は書いてあるのに、なぜか本作のパッケージ等にMBVの名前は出ていません。Teenage Fanclubは書いてもMBVは書かないというのが、どういう意図なのか興味深いところ。ギグの様子の、Debbyのムーブはそっくりでよろしい。KevinとBlindaがセットで行動しているように描いているところ(Kevinのみでも状況は伝わるので、やや嫌味を感じる)や、Colmはほとんど映らないところも笑えます。

疲れ果てて別のハコに向かうと、そこではアシッドハウスが展開されていて、EをはじめてキメたAlanは何かを感じ、そこからドラッグにのめり込む流れがスタート。マンチェスター移住となりますが、このへんはよく知らない流れです。新しい音楽を求めてアシッドハウスにのめり込んだようにも見えるものの、「クリエイション・レコーズ物語」では、音楽はクズだと思っていたとのことで、やはりドラッグの方が先だったのかなと。実際、CREATIONの扱いがそちら方面に大きく傾いたという印象は当時もなかったような。Primal ScreamやMBVも影響を受けた様子はあるものの、その後全然だし、他がどうかと見渡してもそんなことはない。当時英国はすごかったんでしょうが、やはりドラッグの力なので、そう長くは続かなかったのではないかと。This Ecstasy Romance Cannot Lastです。

このあたりより少し前くらいから考えると、FACTORYの動向やマンチェスター・ムーブメントの話もあってもよさそうなところ、大きな扱いはありません。マンチェスターがドラッグの供給源だというだけ。「クリエイション・レコーズ物語」では、The Stone Rosesと契約できなかったことを少し気にしていましたが、それ以外はあまり気にする様子がなく、シメのところでTony WilsonとRob Grettonをこき下ろしていて、CREATIONは別物なんだと、相当思うところがあっただろうなと感じられます。Jeff Barrettは一時FACTORYのPRを手伝っていたとのことで、それもあって出てこないのかなと。後年よりを戻したようではありますが。

その後故郷に戻って母の慰霊、その帰りにまた電車に乗り遅れ、仕方なくついでで自社契約バンド18Wheeler(とかSuperstarとかいたね)のギグを確認しようと訪れたハコで、OASISのプレイを見てしまったことが運の尽き。OASISの名前を聞いた時の、なんじゃそらな表情の変化がよろしい。早速契約し、その頃Sonyにディストロが変わっていたことも相まって人気が爆発。日本での扱いも、それまでのCREATION系の扱いとは全く違うものでした。たしかにOASISを引き当てたのは眼力もあると思いますが、その時Sonyのディストロがなかったら、果たしてどうなっていたかです。この時期、NudeのSUEDE(Sony系)、FoodのBLUR(EMI系)など、役者が揃っていました。

もうこの頃にはPrimalとの関係が悪くなっていたはずですが、あまりそのことには触れられていません。当時日本でのPrimalの持ち上げ方もかなりのもので、Give out...アルバムも相当なPushだったのですが、どうもふさわしくない扱いというか。枚数は出たようですけど。MBVより費用がかかったらしいレコーディングにも触れていません。

Malcolm McLarenのアドバイスを聞いていたシーンは実話なのかな?監督が自演していますがこれがまた良く似ている。

ここからです。未だに経緯がよくわかりませんが、Cool Britania(これは後付け)な流れがどっと出て、労働党躍進で英国政権交代へ。ぜひPRに協力してほしいと頼まれ引き受けかけたものの、勘違い連中ばかりでやってられん状況に。どう見てもブリットポップには否定的な描き方で、それは実際本人もそうでしょう。

ここで気になるのが、本作の日本でのPRです。Trainspottingの制作陣だからという紹介は、まあ同郷だしよいとして、ブリットポップの象徴か?という話。世界の音楽シーンを塗り替えた?少しは。どんなバンドよりも異常だった?ここで「僕らは」となっているので、Alan個人というよりCREATIONがというニュアンスですが、このあたりでJoe Fosterも辞めていて、Sonyから知らない社員が送り込まれ、Alanの手に負えない状態だったはず(という描写)。どんなバンドよりも異常というような、レーベルの方がすごいんだという考えもおそらくなかったのではないか。その意味で、本作の日本での宣伝キャッチはかなり筋違いのような気がします。

Establishmentからの依頼に乗っかる行為を鼻で笑うような描き方について、日本版紹介でコメントしている御仁はどう感じるんでしょうかね。

Primalの関係でLAに行き、そこで死にかけたという話、その後社会復帰のために参加したセラピーで大見得を切って呆れられたという話は、はいはいどうしようもないねという感じ。各場面でいちいち着ているバンドTシャツも笑えます。

ひとしきり昔話が終わると、昔駆け出しのライターだったインタビュアーが自分の番組を持つほどになっていて、収録に招かれて持ち上げられるのかと思いきや、キャリアの全否定から始まる構成に驚き、泣いて否定しながら我に帰るAlanが、また故郷に戻って昔いがみ合っていた父親との関係を修復するという、これまた急な展開で終わります。別にすごいストーリーは期待していませんが、なんじゃいという感じで終わりです。もともとビッグになった部分はおおかたまぐれなんだからそんなもんか。

どうしても、FACTORYの映画と比べてしまいます。SEX PISTOLSから始まり、困難なレーベル運営、バンドとの軋轢、ムーブメントとの葛藤、メジャーレーベルとの駆け引き、政治家を茶化す、ドラッグ、経営危機、身売り。生き死にと派手な女性関係が出てこないくらいで、かなり重なる部分があります。年代と出自が違うことで、少しずつズレがあるくらい。Martin HannettはKevin Shieldsに重なるな。妙に家族を意識したストーリーから見て、マンチェスターは根なし草、スコッツは帰るべき家族がある、ということなんでしょうか。

ただこの2つの流れを追ったところで、結局は音楽シーンのごく一面×2でしかなく、経済レベルで見たらごくわずかなんだろうから、乾いた笑いしか出ない。終盤に、「奴らは取り戻し、奪われたままだ」という表現がありますが、まあそうかもしれません。今となってはいつの話やら、です。

CREATION STORIESというよりAlan McGee Storyであって、映画にするほどの筋書きなのかなと思ってしまいますが、Tony Wilsonを意識したものということならある程度理解できる。でも映画としては24HPPの方が上かな。まあしかし、これで名実ともにCREATIONも幕を下ろしたということなんでしょう。

しかしなぜかどちらの映画もThe Stone Rosesにほとんど触れませんね。何かあるのかな。

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